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    そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。

    房一はその晩留置されることを覚悟していたが、幸ひに取調べは簡単に済んで、夜ふけになつて神原喜作と共に自動車で帰つて来た。この二人が本署まで同行させられたことはあらゆる方面に同情をひき起した。そして翌日になると、出張所の側でも遺憾の意を表し事件は落着した。

    房一の態度が穏かだつたので、相手はいくらか落ちついた。

    「えらい昔話が又ぶり返したんだな」

    「開業日はいつかの」

    が、それは徳次であつた。

    根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。

    と、今泉は一寸声をひそめた。

    房一の帰るのを見送つた正文は、玄関から居間へひき返しかけたが、ふと考へなほして診察所の方へ行つた。すると、そこの廻転椅子の上に、行儀わるくずり落ちさうに腰かけて、両脚を床の上に思ひきりのばした恰好の練吉が、新聞紙を両手で顔の上に持ち上げながら読んでいるのを見つけた。

    「うむ、うむ」

    ときは房一を見ると、殆どすがりつきさうになつた。そして、口をひきつらせ、上半身を揉むやうにして訴へかけた。

    又とぎれた。

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